2015年4月30日木曜日

ミナス州を訪ねて

上の地図はブラジルの心臓部とも言える南東地方の4州が色で示されている。赤がミナス州、青がリオ州、灰色がサンパウロ州そして緑が私達が住んでいるエスピリトサント州。
この地方の人口は約8500万人でブラジル総人口の約42%、面積は約92万平方キロで国土の約11%を占める。

何も地理の勉強をしようとしているわけではない。下の地図は今回まわってきたミナス州の州都Belo Horizonte、そして南へ直線距離で約70キロの世界遺産に登録されている歴史地区の町 Ouro Preto や Mariana、Congonhasなどの位置付けをしてみただけだ。 


ミナス州の面積は約59万平方キロで日本の約1.6倍、ブラジルで4番目に大きな州だ。この南東地方、人口ではサンパウロ州がブラジル1位、ミナス州が2位、リオが3位でエスピリトサント州は14位となっている。

私は子供の頃から地図を見るのが好きで勝手に想像をふくらませていた。50年以上も前ブラジルに移住することになった時もよく南米やブラジルの地図を見ながら将来の夢を描いていた。しかし現実はそんなに生易しいものではなく絶望を何度味わったことか。

結婚して会社勤め、生活が安定してきた頃は定年退職後はブラジルをリュックを背に1年かけて回ってみようとまた夢を描いてみた。しかしこれも色々な事情でたやすいことではないとわかった。今は健康、気力、体力と相談し、しかも家を開けれるのが最大一週間ということで「州都巡りプロジェクト」なるものを立ち上げた。州都とその近くの有名な観光地を一つ、一週間で回ろうというもの。
別に順序はない。インターネットで手ごろな値段の航空券が目につくと買求める。計画はそれから始める。南の方に行ったかと思うと次は北へと行き当たりばったりの旅。ブラジル26州1連邦特区の内15州まわった。しかし一番近い隣の州ミナスには私は仕事で何度か行ったことはあるが妻はまだ行ったことがない。知り合いの親戚が州境の町に住んでいてそこに遊びに行った時「この川の向こう岸がミナス州です」と言われて対岸の家々は見たことがあった。

エスピリトサント州の州都ヴィトリアからミナス州の州都ベロ・オリゾンテに行くには道路、鉄路、空路と三つの方法がある。
上の地図でVitoria-Belo Horizonte 間の道路(赤い線)は国道262号線で522キロ、バスで約8時間半。鉄道はVale 社が鉄鉱石の輸出に使うミナスからヴィトリア間664キロに一日一便それぞれヴィトリアとベロオリゾンテから客車を走らせている。
www.vale.com/tremdepassageirosefvm)

ヴィトリアからは朝7時発、ベロからは朝7時半発、どちらからも約13時間かかる。2州都間の直線距離は383キロ、飛行機で約50分。鉄道は各駅停車で駅の数もかなりある。直線距離と道路、鉄道の距離が大分違うのはヴィトリアは海辺で海抜ゼロメートル、そしてベロは海抜約860m。その間には海岸山脈が連なり国道の一番高い所は1000メートルを超し、道路は曲がりくねって上がっていく。ブラジルの北から南までを海岸沿いに走る海岸山脈はミナスとエスピリトサントの州境で一番高くなりブラジルの山としては一般登山のアクセスが可能なPico da Bandeira (2892m) がある。この山は今はブラジルで3番目に高い山となっているが1960年頃までは1番高い山とされていた。その後ベネズエラとの国境地帯にPico da Neblina (2994m) とPico 31 de Março (2973m)が発見され3番目となった。広大なブラジルだが3000mを超す山はない。
Pico da Bandeira には1986年(?)頃家族で登ったことがある。

ベロオリゾンテ行の手ごろな航空券が出た時に上の3っつのオプションを調べた。どれも一人片道料金約R$90.00(約30ドル、今1ドル3ヘアイス)。 近所でミナスに親戚がある知り合いは汽車の旅を勧める。しかし13時間がどうも引っかかる。時に制限がある私たちには"時ハ金ナリ"
であるし、長旅は疲れて翌日のスケジュールにも影響する。ということで空の旅となった。

出発は約1時間遅れた。なんでもベロ空港に霧がかかって視界が悪いそうだ。その説明は飛び立った後の機内放送であった。しかしそのあと「この遅れはできるだけ速く飛ばして取り戻します」と。オイオイ、そういうことが出来るのかい、車じゃあるまいし安全運航お願いしますよと返したかった。高地の空港、特にサンパウロの空港は冬の6-8月にかけてよく霧が出て遅れが生じニュースになる。海辺のヴィトリア空港ではそういうことはまずない。

約50分で到着、市内のバスターミナル行のバスが出ているのでそれに乗りそこからOuro Preto行の切符を買おうと列に入ったら後ろから肩をポン「私はOuro Preto から用事があってここに来て今帰るところです。バス代でよろしいですから私の車で行きませんか、ホテルまでお届けしますよ」。ブラジルではあまりこういうのを信用してはいけない。普通はタクシーでも空港のタクシーそれにホテル指定のタクシーを使う。ちょっと会話を交わし彼の車で行くことにした。この辺は車が置けないので荷物を持ってちょっと歩く途中で若い娘さんが二人一緒についてくる。彼女たちはOuro Preto の大学生で休みで家に帰っていて今戻るところだという。車で行く途中私たちがエスピリトサントからだというと「そうですか、Nossa Praia (私たちの海辺)の人でしたか、私も母がMarataizes に住んでいたので学生の頃よく行って手助けしましたよ」このNossa Praia という言葉はミナスにいる間中よく聞いた。

ミナス州は海に接していない。それで子供の夏休み、冬休みなどにはエスピリトサント州の海に繰り出す。「リオ州、バイア州というオプションはあるがなにしろCapixaba[カピシャーバ(エスピリトサント州人)]が親しく接してくれるのでまた行きたくなるのだよ」とお世辞でも嬉しくなる。というわけでほとんどのMineiro(ミネイロ=ミナス州人)達はエスピリトサント州を知っているので話が弾む。またエスピリトサント州にはミネイロ達が沢山いる。
車で行く道中、自分の身の上話や周りの景色の説明やら休む暇なく会話が進む、時には身振り手振りが入るのでハラハラする。おまけに若い娘さん達が後ろに乗っている、スピードを落として安全運転と注意する。

Ouro Pretoのバスターミナル近くで娘さんたちは挨拶をして降りていった。それから私たちのPousada (民宿)探し。インターネットで予約してあり略図をプリントして持っていたのだがなかなかわからない。Ouro Pretoは歴史の町ですごい坂の町。そして教会が多い。世界遺産にブラジルで最初に登録された所で歴史地区は景観を保つように改築はできないし電線も地下を通っている。
そういうわけでホテルは少なく多くは古い家の内装を替え民宿に変えている。
道が狭いのと保全のため車の町への出入りは乗用車とヴァンまで。ようやく民宿に着いたが天気がおかしい、狭い急な石畳の通りをのばって上の通りに着く。民宿を選ぶ時、有名な博物館や広場,教会に近い所にしたつもりだったが地図には坂は書いてなかった。まあ、Ouro Pretoはどこも坂だから明日からは車だなと思った。

Ouro Preto の歴史地区

             独立運動の英雄Tiradentesの名を冠した広場 
Ouro Pretoの大学に学ぶ学生たちの寮

Mina de Ouro かっての金鉱のあと
https://youtu.be/b876tsiiCwE

これは別の金鉱で金は鉄鉱石と石英の脈に沿って掘られていったそうだ。
        白い筋は石英         https://youtu.be/_XE3S0RZkA8
Ouro Pretoとは黒い金という意味。ここでは金は黒い鉄鉱石の中にある


昔アフリカからの奴隷によって掘り抜かれた金鉱

Ouro Pretoの険しい坂道、歩いて登れない


ここ近辺だけに産出する Topazio Imperial 指輪などになる


Ouro Pretoから約63キロのCongonhas にあるAleijadinho 作の12Profetasの石像
                                           https://youtu.be/9LLB1IF7UrY                                            

教会の庭の礼拝堂にはキリストの最後の日の物語の66の像がある

Ouro Pretoの隣町Marianaはミナスで最初に市に昇格
し州都になった。

Marianaという町の名前は時のポルトガルの王妃Maria Ana de Austria
の最初の二つの名前を一つにして付けられた。


Marianaにある金鉱(Mina da Passagem)でここは奴隷制度の後、機械を使って掘られた。
ここまではトロッコで降りてくる。
ここから掘り出された金は約35トンで1960年に閉鎖され今は観光用となっている。
https://youtu.be/ksPsnBRVICQ


一番奥はきれいな池となっていて潜水士のトレーニングに使われているという。


ベロオリゾンテの空港からバスでOuro Pretoにまっすぐ行ったのにはわけがあった。日曜日にはベロでヒッピー市(昔からこう呼ばれている)がありエスピリトサントからは貸切バスで買い物ツアーが出たりする。せっかくのチャンスだから見てみたいのでベロが後になった。ミナスの州都は最初はMariana, その後当時金を産出していたVila Rica (豊かな町という意味で)、今のOuro Pretoに変わった。しかしOuro Pretoは周囲が山に囲まれた坂の町で伸びる余地がない。そこで新しい州都建設計画が立てられ1897年にBelo Horizonteが生まれた。20万人が住めるように計画されたものが今ではベロオリゾンテの人口は260万人。大ベロオリゾンテ都市圏内の人口は500万人を超すとか。サンパウロ、リオに次ぐブラジル3番目の大都市となった。

高台から州都ベロオリゾンテを望む

Oscar Niemeyer 設計のPampulhaにある教会

Pampulha 人工湖

Pampulha 湖に映るMineirãoサッカー場と室内競技場Mineirinho

Praça da Liberdade 公園とバックに州知事官邸

Oscar Niemeyer設計のビル、彼独特の曲線ですぐわかった


公園わきにある州立図書館で本のサイン会があり動物愛護協会に売上は寄付するとのことで母親を応援していた娘さんに声をかけられ共感してサイン入りの本を買った
噂のヒッピー市で革鞄を買う

ヒッピー市の前にある市立公園の池で妻は生まれて初めてのオールを握る

          Gruta Rei do Mato ベロオリゾンテから北へ約62キロの所 
                        Sete Lagoasにある最近観光客に解放された鍾乳洞
https://youtu.be/HhZdmwTOY9U



Gruta do Maquiné ベロオリゾンテから北へ約120キロのマキネー鍾乳洞昔から名前は聞いていた。大きな広間が7つあり最近テレビドラマのロケがあったそうだ。
この鍾乳洞はCordisburgoという町にあり、ラテン語とドイツ語との合成語だ。Cordisは心、Burgoは町。そして文豪Guimarães Rosaが生まれ育った所で生家は小さな博物館になっている。

彼の作品 "Grande Sertão: Veredas"にちなんだ像が並ぶ

牛の頭に似ている
https://youtu.be/okPOxS8O_5E



Gruta 巡りのツアー仲間 20人ほどいた。クリチーバ市(パラナ州)、ポルトアレグレ市(南大河州)サンパウロ市から

帰りの日、飛行機は午後6時、時間は早いけどホテルをチェックアウトしタクシーを呼んでもらった。感じの良い青年が運転している。彼と値段交渉してベロオリゾンテの隣町Sabaráまで行って観光スポットを回って帰りは空港に直接届けてもらうことにした。
Sabaráの町も小さなMuseu de Ouro(金博物館)などがあり当時のミナスの黄金時代の名残を感じさせる。荒廃した教会の入口にはまだ修復していないので当時の様子がわかりますと書いてあった。うまい言い訳だ。

古い町並み。

Igreja Nossa Senhora do Ó,
小さいがミナスで最も歴史のある教会の一つで中は落ち着いた雰囲気だ




この町に古い劇場がありなんでも「Estrada Real (王の道=昔の公道でミナスだと金やダイヤをポルトガルの王様に収めるために整備された道か?)」の7つの素晴らしいものの一つに選ばれたとかでトロフィーが置いてあった。今は興業されてないが毎週土曜日には無料で子供用の催し物などに使われているとか。ひょっと壁に貼ってある番組表を見るとなんと私が働いていた会社の主催だ。こんなところで自分の会社の名前を見るなんてうれしくなった。


Minaとは鉱山という意味でミナスとはその複数。Gerais とは一般、全てという意味で確かにミナス州は鉱物資源に恵まれている。鉄鉱石, マンガンを始め様々な鉱石や装飾にも使われる多彩な鉱石、そしてかっては本物の黄金時代が花開いた。「王の道」はミナスではDiamantinaという町までつながる。ここではダイアモンドがでた。しかし植民地であった当時これらの富は本国のポルトガルの王に届けられた。今回の旅でブラジルの植民地時代の歴史の勉強になった。訪れたそれぞれの町で多くの話を聞いた。奴隷についての話には悲しくもなった。それで思い出したことがある。前、家の前に住んでいて妻と親しくしていた黒人の奥さんがある日こう言った。「いまのブラジルがあるのはみんな私たち黒人が働いたお蔭なんだよ」と。

今までは全て地上の観光だったが今回は地中の観光が入った。金鉱跡や鍾乳洞ブラジルは広い、旅をする度に、新しい知識を得、新しい発見や感動を味わう。これから先どんな出会いがあるのだろう。ミナス州を讃える歌として公式な州歌ではないが皆が知っている歌があり次のように始まる。メロディーはイタリアの歌  "Viene Sul Mar" の調子で
http://letras.mus.br/hinos-de-estados/126612

Hino de Minas Gerais

Oh! Minas Gerais
Oh! Minas Gerais
Quem te conhece
Não esquece jamais
Oh! Minas Gerais
オー!ミナス ジェライス
オー!ミナス ジェライス
おまえ知れば
忘れない
オー!ミナス ジェライス


(日本語で歌える歌詞にしたので短くなった)


最後に一つおちを、Viene sul Mar というのはイタリア語で「海においで」という意味で海のないミナス州がそれを使ったというのが面白い。