これは近くに住むカロルがこの前家に来た時に私達に話してくれたものです。
彼女はミナス州の出身で20年ほど前結婚、そして旦那の仕事の関係でエスピリト・サント州に引っ越してきました。エスピリト・サント州は小さな州なので何か大きなプロジェクトがあると他州から人材を募っています。私がいた会社でも多数ミナスから来た人達が働いていました。ミナス州は海に接していないので夏休み、冬休みなどはエスピリト・サント州に繰り出してきてどの海岸町もミナス州のナンバー・プレートの車で一杯になります。
さて今年の冬休み(7月)学校が終わるとカロルの叔母さんの息子のジョンが早めに一人でやってきました。ジョンは今年ミナスの大学の法科に入り初めての冬休み。両親は一週間後に来ることになっていました。着いた翌日早速カロルの次男のタデウとジョンは自転車を飛ばして海辺へと。半ズボンにTシャツ、そのまま海に飛び込みました。冬といってもこの辺昼は28度くらいあって子供たちは海に入って遊んでいます。飛び込んだジョンなかなか顔を上げない。タデウがつついてもなんの反応もない。あわてて顔をひきあげるとぐったりしている。浜辺まで引き上げるとあたりから人が寄ってきて携帯で救急車を呼んでくれた。病院で調べて見ると脊髄が押しつぶされている。どうやら海に飛び込んだときに頭を打ったらしい。下は砂の浅いところなのに彼だけがこうなったのは誰にも納得がいかなかった。上半身は型で固定された。ミナスの親の所に連絡が行き、まず母親が付き添いに来、それから3日たって父親がきた。ジョンは手術が必要と判断され輸血が必要となってきた。ジョンの血液型はまれな血液型で病院にはストックがない。家族の血液型が調べられたのち医者が病室に入ってきて家族を隅に呼んだ。「父親は?」『はい、私ですが』「いや、実の父親はどこにいますか」。父親、医者が何を言いたいのかさっぱりわからずキョトンとしていると横から母親すました顔で「この子の父親の行方は知りませんがその母親の住所は知っていますからそこへ行けばわかるでしょう」「それでは一刻もはやく呼んできてください」。
父親、子供のことで気が動転しているのか何も言わずただ奥さんから住所をもらってその日のうちにバスでミナスの小さな町に向かった。その町に降り立って住所を言うとその家はすぐにわかった。ドアをたたくと男の人がでてきた。「今あなたの息子さんが大変であなたの血がいるのです」。その人、さっぱりわけがわからずおそらく人違いだろうと思い「おれには息子はいないよ」「いやそれは私の息子なのですがとにかくあなたしか私の息子を救えないのです」それからいきさつを説明してもやはり息子なんていないと言い張る。「人ひとりの命がかかっているのです。どうか私と一緒に来て下さい」やっと熱意が通じ「どこの病院で聞いてきたのか知らないが私の血はめずらしいそうだ。そこまであなたが言うのなら行ってあげましょう」。
二人はその日のうちにヴィトリアに向かった。二人が病室に入ってきた時そこにいた親戚一同、あっと、驚きの声をあげた。ベッドの上のジョンと父親のあとについて入ってきた男があまりにもそっくりだったからだ。ジョンの母親であるカロルの叔母は浅黒い肌で父親は黒人。ジョンは肌の色は白で青い目。しかしブラジルではよくあることで誰も怪しまない。人種混合のブラジルでは親と違った肌色の子供が生まれても何代目か前にそういう血が入ったのだろうということで納得する。兄弟でも肌色や目の色の違うのがでる。しかしカロルは思い出した。叔母が結婚したとき1ヶ月も交際をしたかしないうちに式を挙げたことを。今の旦那が以前から彼女のことを好きでたまらないことを知っていてちょっと声をかけたら出来るだけ早く結婚したいと申し出たと自慢げに話したのを。
ジョンは7ヶ月の未熟児で生まれたと言っていた。しかし髪は長く大きい赤ちゃんだったのを覚えている。これで19年前の謎が解けたと思った。父親は後ろの男の人を献血に参加して下さったヴォランティアの人だと息子に紹介した。ジョンは弱々しげに「ありがとうございます」と言っただけ。彼は献血をした後急ぎの仕事が待っているのでと病院からバスターミナルへ直行。病室はしばらくの間誰も口をきかず静まり返った。手術は無事成功。ジョンも次第に快方に向かって行った。カロルは胸をなでおろした。あんなに父親になついているジョンが本当の父親がほかにいるなんて知ったらそれこそこの世に生きていないかもしれないと。
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