2015年12月1日火曜日

埼玉2題 その1 蕨の思い出

1981年3月から1983年1月まで私はブラジルの会社の駐在員として日本で働くこととなった。埼玉県蕨市にマンションを借り私たち家族の新しい生活が始まった。妻は日本語が出来るから問題はなかったが子供たちは全然日本語がわからなかった。私が思うところあって子供たちに日本語を教えていなかったからだ。私と妻の間は日本語そして子供たちとの間はブラジル語とした。一番上の娘の名前はリナ、そして日本語名は自分たちの間だけで「理奈」という漢字を付けた。漢字は日本人の血を引いているということで日本語で書くときに使っている。正式な出生証明書には LINA SAHEKI となっている。Lina と書くとアルファベットを使う国の人は日本人には「りな」と聞こえる発音で呼んでくれる。それで「リナ」はこれだけで日本語とブラジル語共通の名前となっている。Lina という名前はブラジル人にもいる。

どうして「Rina」でなくて「Lina」かというとブラジルでは語頭の R は日本語の H のように発音され 「ヒナ」と呼ばれるからである。語頭のRのほかに語中にRが二つ並んだ場合にもそう発音される。その発音は巻き舌のRで発音してもいいが私達には難しい。ブラジルに来た初めのころは巻き舌のRの練習をよくしたもので当時はアナウンサー達もよく巻き舌で発音していた。しかし今はほとんどの人が簡単な H の発音を使っているようだ。
私達が住んでる大ヴィトリア都市圏内のSERRA市。日本語の発音で「セーハ」と言っている。

日本語の佐伯が SAHEKI  となったのは私の父が戸籍謄本のカタカナでのふりがなが「サヘキ」となっているので「さへき」と読めるようにしないといけないと変な理屈を持ち出して、いくら私が今の「佐伯」という漢字のふりがなは「さえき」だから SAEKI  としなければ 「さへきさん」と呼ばれるよと言っても聞かない。私は当時は高校2年、英語の試験の時は名前をHisayoshi Saeki と書いていた。父にも昔は「てふてふ」と仮名で書いて「ちょうちょう」と読んでいて、それが今は「ちょうちょう」というふりがなになっているんだ、とか言ってもがんこで絶対に引かないのでしょうがない Saheki がブラジルにおける我が家の姓になった。ただ救われたのはラテン系の言語ブラジル語(ポルトガル語)、スペイン語、イタリア語、フランス語などは H は発音しないのでSaheki と書こうがSaeki と書こうが発音は「さえき」となるので問題はない。ただ仕事で英語圏のお客さんなどからは「ミスター サヘキ」と呼ばれる。

このことを子供たちに話すと「おじいちゃん、でかした!」と言う。書くときにSaeki より Saheki の方がバランスが取れて良いというのである。もう、あきらめた。

外国で日本語の名前を付けるには苦労する。まず誰もが正しく簡単に発音できるような名前が望ましい。長男は私の名前から一字取って漢字で「尚人」としてNaotoと読むようにした。Naoto と書くと誰が読んでも「なおと」と発音する。この字をHisato (ひさと)と読ませようとしても誰も呼んでくれない。第一にHは発音しないしSが母音に挟まれると濁るので「いざと」という発音になる。
出生証明書には Mauricio Naoto Saheki と書いてある。日系だと今は大抵ブラジル語と日本語の名前をつけている。人によってはMauricio と呼ぶしまたNaotoと呼ぶ人もいる。
 
次男には当時亡くなった私の末の弟の名前「正美(まさみ)」から一字「正」を取り「正人(まさと)」とした。しかしこれを「まさと」と呼んでもらうためブラジル語での出生証明書には Massato とした。なぜならSが一字だとで母音にはさまれて濁るので「まざと」と呼ばれてしまうからである。
それで出生証明書には Ronaldo Massato Saheki となっている。ブラジル語ではSが二つあってもつまった発音はしない。

ちなみに私の名前は見ただけで難しいという。まず第一にHi-sa-yo-shi とシラブルが四つある。サンパウロなど日系人が多い所はブラジル人も慣れているので大抵「ひさよし」と呼んでくれる。しかしここエスピリトサント州は日系が少ないどころかほとんど出会わない。3シラブルの名前だと何とか呼ぶが4シラブルだと半分以上はあきらめる。近い所にいると私を見て「セニョール」と呼んだり遠いと私のところまで歩いてきて「セニョール」と呼ぶ。英語の知識がある人は冒険して私の名前を呼んで近寄ると発音は正しかったかと聞く。ブラジル式で冒険すると「いざよし」となるのでそれでも立ち上がっていく。それで子供たちのは3シラブルで正しい呼び方が出来るようにした。

もう一つラテン語系の言語で語尾に「O(お)」がつくと大抵男性名詞でそれが人にも使われるので日本人の女子の名前の「――子」の場合日本人と全然接触のないブラジル人だと男性だと思って「セニョール --コ」と呼びだしたりする。だから最近の日系の女の子には日本語の場合「――子」という名前は少なくなっている。

とんでもない方向に話が行ったので今日のタイトルの話は明日にしよう。

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